科学技術館メールマガジン バックナンバー


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  ━  ◆ 科 学 技 術 館 メールマガジン ◇ 第364号 ◆  ━
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                             >>>2012/1/25発行
  
   こんにちは。科学技術館です。
  
   当メールマガジンは毎週水曜日発行です。ご愛読よろしくお願いします。
   長く続いた乾燥注意報がひとまず終結しましたが、油断は禁物。火の元だ
   けではなく、かぜなどひかぬよう体調管理もしっかりと。
  
   * このメールマガジンは等幅フォントでご覧ください。
  
   本号の配信数 9,814人。
  
  
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   【1】科学技術館最新情報
       新着情報・・・ものづくり体験「たたら製鉄実験」
                         イベント見学のお知らせ
              「鉄の丸公園1丁目」教室一部変更について
              「立方体コロコロゲーム」で遊ぼう!
              「今週のユニバース」
  
   【2】科学技術館ラボラトリー
       科学・技術よもやま話・・・
                  「正月太りから考えるゴキブリの神秘」
       科学技術“感”をきたえよう!
  
   【3】科学技術館おすすめ
       科学の本の紹介・・・今月のテーマ「放射能汚染」
  
   【4】科学技術館ニュース
       お知らせ・・・
              「キュリー夫人の理科教室」
              「カラーコピー機のひみつをさぐれ!」
                              参加者募集中
              2012年度 サイエンス友の会会員募集中
       他館の紹介・・・所沢航空発祥記念館
  
    ※2月は毎日開館します。
  
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  【1】    ★ 科 学 技 術 館 最 新 情 報 ★
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  ◆ 新着情報
  
   ■ ものづくり体験「たたら製鉄実験」イベント見学のお知らせ ■
  
    ものづくり教育の一環として、科学技術館サイエンス友の会会員を対象
   とした「たたら製鉄実験」イベントを開催いたします。たたら製鉄は、粘
   土で築いた箱型の低い炉で、原料に砂鉄、燃料に木炭を用い、送風装置に
   鞴(ふいご)を使用して行う日本古来の製鉄技術です。
    本イベントの様子は、当日一般の方にも自由にご覧いただけます。また、
   作業の一部で炉に風を送る「ふいご体験」を一般の方にも開放し、参加い
   ただけるよう予定しています。
  
    日時:2月5日(日)8時30分〜16時
    会場:当館正面向かって左側の広場
    日程:※原則、雨天決行
        8時30分 炉づくり、炭割り開始
       10時30分 砂鉄投入開始
       15時    ケラ出し
       16時    解散
    主催:一般社団法人 日本鉄鋼連盟、
       公益財団法人 日本科学技術振興財団・科学技術館
    指導:特定非営利活動法人 ものづくり教育たたら
    協力:黒崎播磨株式会社
  
    詳しくは、こちらをご覧ください。
    http://www.jsf.or.jp/info/2012/02/post_467.php
  
   ■ 「鉄の丸公園1丁目」教室一部変更について ■
  
    「鉄の丸公園1丁目」で開催している日曜日のワークショップは、通常
   午前と午後に「工作教室」を実施しておりますが、下記に限り午後の「工
   作教室」を「実験教室」に変更します。
  
    変更日:2月5日(日)
    場 所:4階C室「鉄の丸公園1丁目」ワークショップ
        10時30分〜11時30分 工作教室(通常通り)
        13時30分〜13時50分 実験教室
        14時30分〜14時50分 実験教室
        15時30分〜15時50分 実験教室
  
    詳しくは、こちらをご覧ください。
    http://www.jsf.or.jp/info/2012/02/post_468.php
  
   ■ 「立方体コロコロゲーム」で遊ぼう! ■
  
    サイコロみたいな四角い物体「立方体」のすごろくゲームや頭脳パズル
   を楽しもう。あっちへコロリ、こっちへコロリ、先を読んで転がすのがポ
   イントだ。展開図が上手になるよ。遊んだゲームはもらえるよ!
  
    開催日時:2月5日(日)13時〜、14時40分〜(各回約1時間)
    受付時間:各スタート時間の20分前から、会場にて
    会  場:4階I室実験スタジアムL
    定  員:20名
    対  象:小学生以上
         ※参加者が小学校1〜3年生の場合は、保護者とのペアでご
          参加ください。
    材 料 費:300円(入館料は別途必要です)
    講  師:森川 聡氏(科学技術館サイエンス友の会外部講師、
               算数ゲーム研究所キュリオキッズ代表)
  
    詳しくは、こちらをご覧ください。
    http://www.jsf.or.jp/info/2012/02/post_470.php
  
   ■ 今週のユニバース ■
  
    土曜午後の科学ライブショー「ユニバース」では、4階シンラドームの
   スクリーンに全天周のシミュレーション映像を投影し、地球から太陽系、
   恒星の世界、銀河の世界、そして宇宙全体のお話をお伝えします。
    「ゲストコーナー」では、「X線で見た宇宙は激動の世界」のお話をし
   ていただく予定です。
  
    案内役:大朝 由美子さん(埼玉大学)
    ゲスト:飯塚 亮さん(中央大学)
  
    科学ライブショーの詳細や今後の出演予定者については、
    http://universe.chimons.org/jsf/ をご覧ください。
  
  
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  【2】   ★ 科 学 技 術 館 ラ ボ ラ ト リ ー ★
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  ◆ 科学・技術よもやま話
  
   ■ 正月太りから考えるゴキブリの神秘 ■
  
    気がつくと1月も終盤を迎え、2月が目前に迫っています。ご馳走(ち
   そう)に囲まれる楽しいお正月は過ぎ去ってしまいましたが、私の体にや
   っかいなものを残していきました。いつもよりも多く表示される体重計の
   数値。すっかり重くなってしまったなぁ、とため息の連続です。
  
    取り込んだエネルギーと消費したエネルギーの収支がプラスの場合、つ
   まり余分にエネルギーを取り込んだ場合、体はその余分なエネルギーを脂
   肪として体に蓄えます。私たちヒトだけでなく、イヌやネコといったほ乳
   類は余ったエネルギーを脂肪として体に蓄え「太り」ます。また、冬に近
   づくにつれ丸々と太るスズメをよく見ますし、寒ブリは脂がのって美味し
   いですね。鳥類や魚類にも脂肪はあるようです。
    それでは、昆虫に脂肪はあるのでしょうか?硬い外骨格に身を包み、ロ
   ボットのようにカッコいい昆虫はぷよぷよした脂肪とは無縁のように思え
   ます。しかし、昆虫にも脂肪はあります。
    特に、皆さんにおなじみの、ゴキブリ。ゴキブリというと一般的に「し
   ぶとい」というイメージが強いと思いますが、日本でよく見られるゴキブ
   リの仲間の一つ、クロゴキブリの終齢幼虫は最長2か月の絶食(えさも水
   もない状態)に耐えられたという報告もあります。(注1)この恐るべき
   飢餓耐性のひみつは、ゴキブリの体内にたくさんある「脂肪体」に隠され
   ています。
  
    ゴキブリは体重の25〜30%ほどが脂肪体で、この脂肪体に栄養を豊
   富に蓄えているのです。ちなみに、ヒトの標準的な体脂肪率は成人男子で
   15〜19%、成人女子は25%前後なので、少々荒い比較をすると、ゴ
   キブリはややふくよかな体といえるのかもしれません。(注2)
    何でも食べる雑食性のゴキブリは、余った栄養をグリコーゲンという形
   で脂肪体に蓄えます。そして長い間食物がない状況になると、このグリコ
   ーゲンは糖の一種であるトレハロースに転換され、血液中に供給されます。
   トレハロースは血糖としてゴキブリの生命活動を支えるエネルギーとなる
   のです。
    さらに、私たちヒトは分解して尿と共に捨ててしまうアンモニアをも尿
   酸に変えて脂肪体に蓄えています。そして、いざというときにはその尿酸
   を窒素源として使用し、アミノ酸を合成しているのです。
  
    ゴキブリのしぶとさには、ひとつ豊富な脂肪体が関係しているのです。
   ともすれば嫌われがちな脂肪も、苛酷(かこく)な環境で生きる生物にと
   っては大変貴重なものなのですね。だから私たちもゴキブリを見習い、よ
   り多く脂肪をためて危機に備えなくては・・・とはいかないのが悲しいと
   ころです。まずはお正月太りを是正すべく、地道にダイエットをしていこ
   うかと思う今日この頃です。
  
    (注1)洗 幸夫,(株)キャッツ環境科学研究所,
               衞生動物 47(1), 31-36, 1996-03-15
    (注2)厚生労働省「肥満ホームページ」より
        http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/himan/inspection.html
  
    執筆者:中尾 宙 科学技術館事業部
  
    「科学・技術よもやま話」のバックナンバー
    http://www2.jsf.or.jp/mailmaga/y_index.html
  
  ◆ 科学技術“感”をきたえよう!
  
    〜ぼくのお家は鉄のお家 の巻〜
  
    「S」 「RC」 「SRC」
    “たかい”順にならべてください。
  
    ヒントとこたえは、こちらのホームページをご覧ください。
    http://www2.jsf.or.jp/00_info/kagakugijutukan/kagi-kan.html
  
  
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  【3】    ★ 科 学 技 術 館 お す す め ★
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  ◆ 科学の本の紹介
  
    今月のテーマは「放射能汚染について」の本です。
    日本は、世界で唯一原爆を落とされた国なのに、なぜ原子力という核エ
   ネルギーに寛容なのでしょう。今回は、著者が12年間取材し、「どうや
   って原子爆弾は生まれたのか」「なぜ日本は原子力を受け入れたのか」
   「福島第一原発事故後をどう生きていけば良いのか」について考え続けて
   きたことをまとめた本を紹介します。
  
   ■ 『ヒロシマ、ナガサキ、フクシマ 原子力を受け入れた日本』 ■
     田口ランディ(著)ちくまプリマー新書
     2011年9月発行 筑摩書房 760円(税別)
  
    日本は、1945年に広島、長崎への原爆投下、1954年のアメリカ
   によるビキニ環礁での水爆実験による第五福竜丸の被ばく、1999年の
   茨城県東海村の臨界事故、そして今回の福島第一原発の事故と5回も被ば
   くを経験している国です。その日本が、原子力になぜ寛容なのだろうかと
   著者は問います。著者は、1999年茨城県東海村の臨界事故をきっかけ
   に原子力、核エネルギーに向き合うようになり、2000年広島での取材
   で核兵器と向き合うことになりました。それを機に原子力の問題と原爆の
   問題を分けて考えられなくなったといいます。
    著者は、広島・長崎の原爆投下に対し、憤りを感じてはいるが、反核運
   動に積極的になれなかったといいます。それは、なぜだったのか。歴史を
   振り返って考えてみると「反核運動が、社会主義・共産主義とうまく結び
   つけられ、利用されていたのではないか。」という考えに行きつきます。
   反核・反原発を強く主張すると「あなたは、社会主義・共産主義の人なの
   ね。」といわれてしまい、それは、はっきりとした根拠がないけれど、自
   分にとって都合のよくないことに思えたというのです。
    しかし、本当にそうなのでしょうか?取材をしていくうち、歴史を勉強
   し直すうちに何か違うと感じ始めたそうです。原爆・原子力の問題を歪
   (ゆが)んだ目で見ていたのではないか、あたりまえと思わされているだ
   けだったのではないかと気づくのです。そして、原爆・原子力に反対か賛
   成かといった二者択一の論議のしかたでは、何も生まれてこない。意見の
   違う者同士が話し合い、意見をぶつけ合う中から、新たな考えを見つけ出
   していくことでしか解決していかないのではないかと思うと述べています。
    これまで日本が進んできた道を振り返りながら、これからの日本の進む
   道を各自しっかりと考えていかなければならないと思いました。
  
    執筆者:金澤磨樹子 科学読物研究会
  
    科学読物研究会ホームページ http://kagakuyomimono.cool.ne.jp/
  
    「科学の本の紹介」のバックナンバー
    http://www2.jsf.or.jp/mailmaga/b_index.html
  
  
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  【4】    ★ 科 学 技 術 館 ニ ュ ー ス ★
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  ◆ お知らせ
  
   ■ キュリー夫人の理科教室 ■
  
    今年も「キュリー夫人の理科教室」を開催します。キュリー夫人の生涯
   を紹介する紙芝居とキュリー夫人が子どもたちに行った実験授業を再現す
   る実験ショーは、子どもたちの科学への好奇心を育むための活動として全
   国各地で親しまれてきました。
    本年の開催では「キュリー夫人と放射線」をテーマとして紙芝居と線量
   計を使った計測や観察による実験ショー、さらに放射線の専門家によるお
   話など予定しています。
    また、本会場ではポーランド大使館の協力により『祖国からみたマリー
   ・キュリー』パネル展の展示も行います。
  
    開催日:2月4日(土)
    時 間:11時〜、14時〜、15時〜(各回30分)
        開場は各回10分前
    場 所:4階I室 実験スタジアムR
    参加費:無料(入館料は必要です)
    定 員:各回30名程度
        ・事前に申し込みが可能です。
        ・希望の時間とお子様の年齢、人数を明記して
         下記メールアドレスにご連絡ください。
        ・空席があれば当日の参加、閲覧も可能です。
    申込・問合先:1911ssm@gmail.com
    主 催:サイエンス スタジオ・マリー
        http://www.max.hi-ho.ne.jp/min-kko/index.html
    協 力:野村貴美(のむら きよし)先生
        東京大学工学部特任准教授
        日本放射線安全管理学会副会長
  
   ■ 「カラーコピー機のひみつをさぐれ!」参加者募集中 ■
  
    本物のカラーコピー機を“解剖”してそのしくみや原理をさぐる、かが
   く・夢・あそび「キッズ・フロンティア・ワークショップ」に参加して、
   色の不思議を体験してみませんか。
  
    開 催 日:3月10日(土)(小学校4〜6年生対象)
           11日(日)(中学校1〜3年生対象)
    開催時間:9時30分〜16時
    開催場所:科学技術館
    参加方法:往復はがきによる申し込み。応募者多数の場合は抽選
    参 加 費:無料(参加者は入館料も無料)
    定  員:各32名
    応募締切:2月13日(月)必着
    主  催:財団法人 新技術開発財団
    問合せ先:「キッズ・フロンティア・ワークショップ」事務局
         03−3212−8509
  
    応募方法についての詳細は、こちらをご覧ください。
    http://www2.jsf.or.jp/mailmaga/363/363.pdf
  
   ■ 2012年度 サイエンス友の会会員募集中 ■
  
    2012年度サイエンス友の会会員を募集しています。入会をご希望さ
   れる方は、サイエンス友の会のウェブページをご覧のうえ、お申込みくだ
   さい。なお、先着順ではありませんので、期間内にお手続きをお願いしま
   す。ただし、応募多数の場合には抽選になります。
  
    募集締切:2月15日(水)
    ※前年度会員だった方も、新たに入会申込が必要です。ご注意ください。
  
    詳しくは「サイエンス友の会入会ご案内」をご覧ください。
    http://www.jsf.or.jp/club/admission/
  
  ◆ 他館の紹介
  
   ■ 所沢航空発祥記念館 ■
  
   ☆大型映像フェスティバルのお知らせ
  
    2月の大型映像フェスティバルは、「シーモンスター」に加え「フライ
   ングモンスター」、「星の王子さま」、「ボーン・トゥービー・ワイルド
   (野生に生きる)」、「パンゲア・恐竜物語」の作品を期間限定で上映し
   ます。ぜひご覧ください。
  
    2月4日(土)、5日(日)
     「シーモンスター」「フライングモンスター」
    2月11日(土・祝)、12日(日)
     「シーモンスター」「星の王子さま」
    2月18日(土)、19日(日)
     「シーモンスター」「ボーン・トゥービー・ワイルド
                           (野生に生きる)」
    2月25日(土)、26日(日)
     「シーモンスター」「パンゲア・恐竜物語」
  
    詳細はこちらをご覧ください。
    http://tam-web.jsf.or.jp/contx/modules/myalbum3/viewcat.php?cid=1#37
  
  
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             ★ 担 当 者 よ り ★
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   ■ 東大が播いた「柿の種」 ■
  
    1週間前の1月18日、日本経済新聞は、朝刊1面トップに白抜き活字
   の大見出しで「東大、秋入学に全面移行」と報じました(注1)。東京大
   学が、世界的な大学間競争の中で生き残りを賭けて、国際標準となってい
   る「秋入学」の検討を始めていることは、すでに昨年春から報道されてい
   ます。にもかかわらず、このような大きな取り扱いになったのは、1月〜
   3月が入試シーズンであって世の中の注目を惹きやすいと読んだからなの
   でしょう。実際、他紙も大きな紙面で追随しました。
    そして20日に、その検討の「中間まとめ」が大学から公表されていま
   す(以下、単に「報告」といいます。)(注2)。
  
    報告では、「あらゆる分野で急速に進むグローバル化の中、社会の負託
   に応える高度な人材を育成するため」には、思い切った教育改革を進めて
   いく必要があり、その方策として、国際標準の「秋入学」を採用すること
   で、
    (1)(学期のズレがなくなり、日本から海外への、また海外から日本
      への)学生・教員の流動性を高めること
    (2)(春の入試合格から秋の入学までのおよそ半年間という)ギャッ
      プタームを活用して質の高い多様な体験を学生に積ませること
    という、二つの大きなメリットが得られるとしています。東大としては、
   「秋入学」を他大学にも呼びかけながら、5年後(2017年−現中学1
   年生が対象)の実施を目途に、このシステムを採用するための調整を続け
   ていくとのことです(カギ括弧内は報告の引用、丸括弧内は筆者の補足。
   以下同様)(注3)。
  
    大学は、研究と教育の両面について、より高度な人材を育成して社会に
   送り出すことを目的していますが、一方では、所得の向上につれて大学へ
   の進学率が上がっており、大学の大衆化という問題を抱えています。残念
   ながら、過去に比べて、大学生の平均レベルは下がっています。これは世
   界的な傾向ですが、加えて日本の場合、大学への受験競争により生じてい
   る弊害という解決すべき課題があります。
    報告では、この点について重要な指摘をしています。「大学と高等学校
   以下の教育との関係を見ると、大学入試への受験準備に高校生が多くの力
   を注ぎ、受験競争が低年齢化する傾向も生じている。(中略)大学では、
   学力を測定する客観的な手段としてペーパーテストに比重を置く仕組みを
   とっている。教科書に書かれた内容を吸収し、ペーパーテストで高得点を
   とることを競うこと自体は、学力を高める上で一定の意義を持っており、
   否定されるべきことではない。しかし、このような受験競争は、ともすれ
   ば学び方を外発的動機に基づく受動的なものとしてしまう。そうした学び
   方は、大学で求められる『自ら課題を発見する』という主体的・能動的な
   学びとは異なるものである。(中略)大学に入ってくる若者に対し、受験
   競争の中で染み付いた点数至上主義の意識・価値観をリセットし、学びに
   取り組む姿勢を転換させるため、いかにインパクトのある体験を付与する
   かは、大きな教育上の課題と考えられる。」と。
    確かに最近の傾向として、大学生はかなりの割合で、「大学での講義」
   を「高校の授業」の延長線上にあると思っているところがあるように見え
   ます。その意味では、昔とは違い、一般に、今の学生たちは「まじめに」
   講義に出席します。一方で、「受験」という長時間の重荷から解放されて、
   ほっとしてしまい、大学で何を学ぶべきかを分からないままに、時間に流
   されていく学生も多いようです。
    「秋入学」の改革案は、「高大接続」から出ているこの問題を、ギャッ
   プタームの期間に、学生の自覚を促すことで解決を図れないか、とするも
   のなのでしょうか。
    これまでは、高校卒業後直ちに大学に、というシームレスなプロセスが
   効率的で望ましいことと考えられてきたのを、この間に「多様な経験を積
   む『寄り道』」の期間(ギャップターム)を置くことで、社会が求める人
   材を育成していくことができるのではないかというのです。
    「秋入学」を直ぐにも実施できないのは、制度設計、プログラム開発と
   受容れ環境がないからです(注4)。また、学生にとっては、受験・入学
   内定直後に「ギャップタームにおける多様な体験や内省を通じ、海外留学
   等の時期をはじめ、入学後の学習体験の在り方をデザインし、自らの責任
   において意思決定を行」わなければならないことになります。このことは、
   前段階としての高校時代に、大学を出て社会に出るためのキャリアパスを
   考えておかなければならないことを意味しています。
    独り大学だけで解決案をまとめられるとは思えません。小中高、産業界
   も含めて智慧を出し合い、国全体で教育とキャリアパスに関する制度設計
   をしていかなければならないのではないでしょうか。東大が播いた「柿の
   種」。このタネがあちこちで芽を出し未来の日本を形作る大樹になるよう
   な「仕組み」にしていくには、関係者総がかりの建設的な参加が欠かせま
   せん。
  
                        (企画広報室 吉田 浄)
  
  
   注1.「秋入学に『全面移行』」というのは、「学部段階」では現行の春
     (4月)入学を廃止して、すべて秋(9・10月)入学とすることを
     意味しています。大学への入学時期・卒業時期については、学校教育
     法では、2008年以降、学校の裁量により決めることができるよう
     になっています。
  
   注2.東京大学は、2012年1月20日付のホームページで、「将来の
     入学時期の在り方について ―よりグローバルに、よりタフに― 
     (中間まとめ)」と題する報告書を公表しています。
     以下からダウンロードすることができます。
     http://www.u-tokyo.ac.jp/gen02/pdf/20120120interim.report.pdf
  
   注3.「秋入学」の検討を始めているのは、東大だけでなく、旧帝大7大
     学、筑波大学、東京工業大学、慶応義塾大学、早稲田大学の、計12
     校です。これらの大学が「秋入学」GOの意思決定をすると、その1
     学年の学生定員は35,000名ほどになります。これだけの数の学
     生が効果的なギャップタームを過ごすことができる多種多様のプログ
     ラム・受容れ先を開発していく必要があります。これは容易なことで
     はありません。まして、他の大学も雪崩を打って移行することとなれ
     ば・・・。
  
   注4.センター入試、各大学の入試の日程は現行通りで計画されています
     から、合格者は、3月から秋までの間、「入学予定者」となり、自由
     な時間、逆に言うと、宙ぶらりんの期間ができることになります。学
     生の自覚に多くを求める一方で、大学としても相当のケアをしなけれ
     ばなりませんが、その部分の検討はこれからです。
  
  
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